2015年8月22日土曜日

サンダーバード ~込められた平和への願い~

 今秋、サンダーバードの誕生50周年を記念して、新シリーズが放送されます。CGと実写モデルを融合させ、旧作のファンも納得の映像らしいです。新型機のメカニックデザインは、なんと河森正治氏が手がけたそうですが、残念ながらロボットには変形しないとのことでしたw

 先日、予告番組を見ましたけど、サンダーバードのファンていうのは、「第一作至上主義者」の集まりですから、劇場版や実写版に引き続いて、今回のリブート版も多くの批判を受けるのは致し方ないところと思われます。
 ただ、今回ありがたいのは、関連番組として、NHKが初代サンダーバードを何作か再放送してくれることです。早速、視聴させていただきました。

 「サンダーバード」は、1965年にイギリスで制作された特撮番組で、日本では1966年に放送されました。
 
 僕は、小さかった頃、此所よりもっと田舎の町で暮らしていたんですが、そこにプラモデル屋が1軒ありました。今で云うホビーショップですよね。で、店の棚の上に、サンダーバードの秘密基地の電動プラモデルが置かれていたんですよ。すごーっく大きな箱で、その威厳たるや、親にねだるどころか、値段を聞くのさえはばかる程でした。
 
 ネット上にも、この秘密基地にまつわる昔話がたくさん出ていますが、どの店でも、棚の上に置かれてたみたいです。まあ、あんな大きい箱を置ける場所なんてそこしかなかったんでしょう。だから、当時の日本中の子どもたちは、みんなしてプラモデル屋の天井を見上げていたってことになります。
 で、調べてみましたら、価格は、2,200円だったそうです。当時の駄菓子の値段から考えますと、今だと1万円くらいでしょうか。1万円のおもちゃなんて、今ならば簡単に買ってもらえそうですが、あの頃の日本って、やっぱり貧しかったんですよね。
 これ、これ、これです。


 「えーーーーっ?」こんな、ちゃっちい代物だったんですか。とっても残念な気分ですw

 サンダーバードの人形は、声優の音声信号と同期させて人形の唇を動かす「リップ・シンクロ・システム」という装置を頭部に内蔵していたそうです。初音ミクでも歌と唇の動きを合わせる「リップ・モーション」というのは重要な技術ですが、50年も前にこのような技術が確立されていたとは驚きました。「スーパーマリオネーション」恐るべしですね。

 では、日本で最も人気の高かった、そして僕も大好きだったサンダーバード2号の出発シーンです。


 改めてみると、すごい牧歌的な雰囲気ですね。救助を待っている人がいるのに、「いまから行くから、ちょっと待ってろしっ」っていう感じです。地元の消防団だってもっと早く出動できると思います。たぶん、今と50年前とでは、時間の進み方が違っていたんでしょう。

 ウィキペディアからの引用です。よくまとめてあるので、そのままいただきますね。

 「人形劇でありながら、その模型のリアルさ、質感の充実、子供でも理解できる単純なストーリー、「人命救助」というスリリングかつ前向きで健全なイメージ、これら全てが明確な世界観を提示して大好評を博した。ロケット噴射の描写などの特撮技術も優れており、その後の特撮作品への多大な影響を及ぼした。登場するメカもデザイン的に極めて斬新かつ洗練されていた。音楽もオーケストラサウンドを基本に、質が高く映像にマッチしたものだった。」

 最高の賛辞が並んでいますね。きっと熱烈なファンによるものでしょう。でも、僕も同意見です。

 では、サンダーバードに明らかに影響された日本の特撮シーンを紹介させていただきます。まずは、1967年の「ウルトラセブン」。地球防衛軍の秘密基地からウルトラホーク1号が発進するシーンです。


 スクランブル発進って、命令を受けてから何秒で出発できるかが勝負だと思うのですか、牧歌的雰囲気を確実に継承しているのが分かります。

 続いて、1968年の「マイティジャック」です。主演は二谷英明さん、音楽は、なんと冨田勲先生です。円谷プロの、納得できる作品を作るためなら会社が傾いても構わない、という信念が伝わってきます。


 謎の組織相手に容赦ありませんね。無敵戦艦1隻あれば、戦いに勝てるという、戦艦大和→マイティジャック→宇宙戦艦ヤマトと続く、日本人独特の思想が表れてます。

 2004年にハリウッドで実写版サンダーバードが制作されました。僕は、字幕版を見たんですけど、吹き替え版は、「V6」がやってました。
 で、アメリカ人って、常に自分たちが正しいって思っているんで、勝手に自分たちの嗜好に合わせて変えちゃうでしょ。まあ、秘密基地の描写とかは、さすが実写版って感じでしたし、ハリウッド版「ゴジラ」と比べれば、まだ良い方でしたけど。ただ、2号の扱いは許せませんね。あれじゃあ、ただのコンテナ機ですよ。

 さて、先日「ジェットモグラ号の活躍」を見たんですけど、大人になってみると、子どもの時には分からなかったことが、いろいろと見えてきたんですよ。

 1965年って、第二次世界大戦からまだ20年しかたってない頃です。制作者のジェリー・アンダーソンは、自身も従軍経験がありますし、戦争で兄を亡くしています。そしてロンドンは、ドイツ軍の最新兵器V2ロケットによって無差別爆撃をされたところでもあります。
 そういう背景を考えた時に、僕は、「国際救助隊」って、戦争のアンチテーゼに思えてきたんです。戦争って、国家と国家が、科学技術を利用した兵器を使って人を殺し合うわけですよね。でも「国際救助隊」は、国籍関係なく、科学技術を駆使した機材で人命を救助するんです。科学技術は、人を救うために使われるべきっていう思想が作品の底流にあると思うんです。科学技術の粋を結集しているが決して兵器ではない。そして誰も殺さないという理念があると思うんです。
 
 そう考えると、この作品のもつ反戦性が見えてきます。「ジェットモグラ号の活躍」は、第2話になるそうですけど、ストーリーは、アメリカ陸軍の新型装甲車が実験中に遭難するというものです。で、大きな穴に落ちるんですけど、それが、昔、陸軍が不要になった兵器を処分して埋めていた穴なんです。これって、凄いメッセージですよね。冷戦を背景に軍拡競争に邁進するアメリカに対する皮肉ともいえるストーリーだと思います。

 サンダーバードは、アメリカのメディアには、受け入れられませんでした。原因として、子ども番組に合わない50分という放送時間や高すぎた放送権料があげられていますが、僕は、この作品が持つ、反戦性がアメリカに嫌われたんではないかと思うんです。

 でも、その後の特撮作品、SF作品は、正義をかざして悪を撃つものばかりになってしまいました。再び、科学技術は最新兵器となり、敵を攻撃するために使われました。
  しかし、国際救助の理念は、現在「国際援助隊」などのかたちとなって少しずつ現実のものになってきています。

 「国際救助隊」は、世界平和など夢物語だと承知していながらも、本気でそれを願っていた1960年代という時代が生んだ物語でした。そしてそれは、決して当時のアメリカ人には創ることのできない物語だったのではないでしょうか。

 そうそう、秘密基地は無理でしたけど、僕もサンダーバードのおもちゃを買ってもらいました。もちろん2号ですよ。何でアメリカ人は、この格好良さが分からないんだろう。

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